葵の上

E.元祖ツンデレ。好きな人には素直になれない葵の上を襲った悲劇。

光源氏の最初の正妻、“葵の上”。本来ならば葵の上は皇后となるはずでしたが、政略結婚により光源氏の妻となります。

一方で12歳を迎え、成人になったことを示す儀式、元服を済ましたばかりの光源氏は藤壺に夢中。4歳も下で他の女のことを想う夫に当然ながら良い印象は抱かず、ふたりの夫婦生活は順調にいくことはありませんでした。

あまりうるはしき御ありさまの、とけがたく恥づかしげに思ひしづまりたまへるを、さうざうしくて、中納言の君、中務なかつかさなどやうのおしなべたらぬ若人わこうどどもに、戯れ言などのたまひつつ、暑さに乱れたまへる御ありさまを、見るかひありと思ひきこえたり。

【現代語訳】
葵の上はきちんとして、一向に打ち解ける様子もなく、見ているこちらが気詰まりになるくらいすましていらっしゃる。光源氏は仕方なく、中納言や中務(※)といった気の利いた女房たちと軽く着崩したまま、冗談を言い合っていらっしゃる。

貴族の家柄であり、美しく教養もある葵の上のプライドは高く、光源氏に対してもよそよそしい態度を取ります。そんな葵の上を「可愛げがない」と見た光源氏は藤壺を想ったり、夕顔のもとに通ったりとやりたい放題。

「どうして他の女のところに行くの?」と不満を爆発させたり、「もうやめて!」と泣きすがることをすれば、光源氏も多少は態度をあらためるかもしれません。しかし、それらは葵の上にとっては屈辱的なもの。

そんなふたりは、葵の上が光源氏との間に子どもを授かったことをきっかけに少しずつ変化します。光源氏はつわりに苦しむ葵の上に愛おしさを感じ、初めての妊娠に不安を隠せない葵の上は初めて夫を心の支えとします。結婚をして10年目にして、ようやくふたりの関係性は回復することとなるのでした。これはまさに、葵の上が「特定の相手に対して敵対する態度(ツン)を見せたかと思えば、好意的な態度(デレ)をとる」ツンデレであるといえるでしょう。

やがて葵の上は六条御息所の生霊に苦しめられますが、なんとか息子の夕霧を出産。そのまま容態が急変し、葵の上は亡くなってしまいます。夫婦関係が良好になった矢先であっただけに、光源氏の悲しみは深いものでした。

葵の上はその性格から光源氏の前でなかなか素直になれませんでした。頑なな気持ちを捨て、ようやく自分の感情を表せるようになった頃には時すでに遅し。少しでも早く正直になっていれば、光源氏との深い愛が芽生えていたかもしれません。

男性に限らず、人はありのままに感情を表現する人に弱いもの。葵の上のように高いプライドをお持ちかもしれないあなたも、一度それら全てを取っ払って素直になってみれば、相手との関係も大きく変わるかもしれません。

※葵の上に使えていた女房のこと

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です